には昼間でも

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 僕は或知り人の結婚|披露式《ひろうしき》につらなる為に鞄《かばん》を一つ下げたまま、東海道の或停車場へその奥の避暑地から自動車を飛ばした。自動車の走る道の両がはは大抵松ばかり茂つてゐた。上り列車に間に合ふかどうかは可也《かなり》怪しいのに違ひなかつた。自動車には丁度僕の外に或理髪店の主人も乗り合せてゐた。彼は棗《なつめ》のやうにまるまると肥つた、短い顋髯《あごひげ》の持ち主だつた。僕は時間を気にしながら、時々彼と話をした。
「妙なこともありますね。××さんの屋敷幽霊が出るつて云ふんですが。」
「昼間でもね。」
 僕は冬の西日の当つた向うの松山を眺めながら、善《い》い加減に調子を合せてゐた。
「尤《もつと》も天気の善い日には出ないさうです。一番多いのは雨のふる日だつて云ふんですが。」
「雨のふる日に濡れに来るんぢやないか?」
「御常談《ごじやうだん》で。……しかしレエン.コオトを着た幽霊だつて云ふんです。」
 自動車はラツパを鳴らしながら、或停車場へ横着けになつた。僕は或理髪店の主人に別れ、停車場の中へはひつて行つた。すると果して上り列車は二三分前に出たばかりだつた。待合室のベンチにはレエン.コオトを着た男が一人ぼんやり外を眺めてゐた。僕は今聞いたばかりの幽霊の話を思ひ出した。が、ちよつと苦笑したぎり、兎《と》に角《かく》次の列車を待つ為に停車場前のカツフエへはひることにした。
 それはカツフエと云ふ名を与へるのも考へものに近いカツフエだつた。僕は隅のテエブルに坐り、ココアを一杯註文した。テエブルにかけたオイル.クロオスは白地に細い青の線を荒い格子に引いたものだつた。しかしもう隅々には薄汚いカンヴアスを露《あらは》してゐた。僕は膠《にかは》臭いココアを飲みながら、人げのないカツフエの中を見まはした。埃《ほこり》じみたカツフエの壁には「親子丼」だの「カツレツ」だのと云ふ紙札が何枚も貼つてあつた。
「地玉子[#「地玉子」に傍点]、オムレツ[#「オムレツ」に傍点]」

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