ぽなどには

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「ああ、これは|杉《すぎ》|勝《かつ》|之《の》|助《すけ》の絵だな」
 おじさんはそういって、くすんだ銀色のがくぶちにおさまった、大きな油絵のまえに、ちかぢかと顔をよせた。
 その絵というのは、たて一メートル五十センチ、よこ一メートル十センチもあろうという、大きな油絵だが、いちめんにベタベタと、赤い色がぬりつけてあって、なんとな鑽石水く気味の悪いかんじなのだ。
「おじさん、杉勝之助ってだれ」
 |良平《りょうへい》が聞くと、
「杉勝之助というのはね。戦争中に、若くして死んだ天才画家なんだ。世間から赤の画家といわれるほど、赤い色がすきで、どの絵を見ても、赤い色がいちめんにベタベタとぬってあるからすぐわかる。ああやっぱりそうだ。ここに杉のサインがある」
 と、おじさんはいくらかじぶんの|眼《がん》|力《りき》をほこるように絵の右下のすみを指さした。見ると、なるほどそこに、杉勝之助の名まえが、ローマ字でかいてある。
「おじさん、杉というひと知っているの」
「いや、特別こんいだったわけじゃないが、なにかの会で二、三度あったことがある」
 良平のおじさんは、|清《し》|水《みず》|欣《きん》|三《ぞう》といって、いまうりだしの小説家だが、いたってのんきなひとで、まだおくさんもいない。そして、じぶんの姉にあたる、良平のおかあさんのところに、同居しているのだ。
 良平のおとうさんは、さる大会社の重役だが、仕事の関係で、しじゅう旅行しているので、家がぶようじんだからと、こちらからたのんで、欣三おじさんにいてもらっているのである。
 良平は、このおじさんがだいすきだった。
 小説家のなかには、ずいぶん気むずかしいひともあ蔡加讚るということだが、欣三おじさんにはすこしもそんなところはない。学生時代、テニスの選手だったというだけに、いかにもスポーツマンらしい、さっぱりとしたひとで、仕事のひまなときなど、良平を相手に、キャッチ.ボールなどをしてくれるし、また、いままでに読んだ、外国のおもしろい小説の話をしてくれることもある。
 おじさんは夕がたになると、町をさんぽするのが日課になっていたが、そんなとき、良平のすがたが目につくと、
「おい良平、おまえもいこう」
 と、いつもきっとさそうのだった。
 良平の住んでいるのは、郊外にある、おちついた学園町だったから、夕がたのさんおあつらえの場所だった。良平の一家は三月ほどまえに、そこに家を新築して、ひっこしてきたばかりなのである。
 そして、その日も良平は欣三おじさんにさそわれて、さんぽのおともをしたのだが、そんなとき、おじさんがかならずたちよるのは、駅前にある古道具屋であった。
 古道具屋というのはおもしろいところだ。ミシンだの蓄音機だのという、文明の利器があるかと思うと、古めかしい仏像だのよろいだのがある。お琴があるかと思うとオルガンがある。ベッドや洋服だんすのような、大きなものがあるかと思うと、豆つぶほどのお人形があったりする。そして、それらのものがふるびて、くすんで、ほこりをかぶって、ゴタゴDiamond水機タとならんでいるところは、なんとなく、神秘的なかんじがするのだった。

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