気がつかなか

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 それはさておき滋は、そのつぎの朝、軽井沢をたって、東京へかえってきたが、その当座、わすれようとしてもわすれることのできないのは、あのふしぎなできごとである。
 滋はおかあさんにたのんで、小さな守りぶくろをぬってもらうと、あの黄金の鍵をなかへしまいこみ、|肌《はだ》|身《み》はなさず持っていることにした。
 滋はおりおりそっと、守りぶくろのなかから、黄金の鍵seo公司をだしてながめた。するとさまざまな空想のつばさがひろがっていくのだ。
 ああ、この小さい鍵に、いったい、どのような秘密があるのだろうか。剣太郎の腕の筋肉から出てきたということだが、いったいだれがそんなところへ、黄金の鍵を封じこめておいたのだろうか。
 じいやの話によると、剣太郎は小さいときから、左の腕のつけねに大きなおできがあったそうだが、そのなかに、このような鍵がかくしてあろうとは、夢にも知らなかったということである。
 してみると、だれがこの鍵をかくしたにしろ、それは剣太郎の、まだものごころもつかぬころのことなのにちがいない。
 ああ、ものごころもつかぬ子どもの腕のなかに、鍵をかくそうなどとは、なんというひどいことをしたものだろう。しかし、また考えなおすと、それだけにこの鍵のたいせつさがわかるような気もするのだ。ひょっとすると、この鍵こそは剣太郎の、幸運のとびらをひらく鍵ではないだろうか。
 ある日、滋はその鍵を、てのひらにのせてつくづくながめていたが、そのうちに、鍵のうえになにやら小さな文字らしいものが、ほってあるのに気がついた。そこで、お父さんの部屋から、虫めがねをかりてきてしらべてみると、そこにほってあるのは、『|N《ナン》|O《バー》|.《.》|1《ワン》』という文字、すなわち第一号という文字である。
 滋は、はてなとばかりに首をひねった。
 第一号というからには、第二号や第三号の、黄金の鍵があるのだろうか。もし、あるとすればどこにあるのだろう。
 滋はいよいよ深い謎のなかに、まきこまれていく気峇里島旅行團持ちだったが、そのうちに、十日ほどおくれて、謙三も軽井沢からかえってきた。謙三は滋のうちに同居して、大学へ通っているのである。
 ふたりは学校からかえると、毎日、軽井沢の話ばかりしていたが、するとそれからまた五日ほどたって、金田一耕助がひょっこりたずねてきた。
 金田一探偵はそれまで軽井沢にのこって、警察の人たちといっしょに、いろいろしらべていたのである。
 その耕助の話によると、あのきみょうな三軒の家をたてたのは、ゆくえ不明のサーカス王、鬼丸太郎だということがわかったそうである。
 しかし、なぜあのように三軒の家を、なにからなにまで、そっくり同じかたちにたてたのか、そこまではまだわからないということなのだ。
 三軒の家は谷をへだてて三つの丘に、それぞれたっているのだが、外から見て、いかにもよくにた家だということは、近所の人も知っていたものの、中までそっくり同じだとは、いままでだれも知らなかったのである。
 謙三と滋があらしの夜、一夜の宿をもとめたのは、いちばん南の丘にある家だった。そしてつぎの日、目をさましたときには、いちばん北の家へはこばれていたのだが、なにしろまえの晚、ひどいあらしで道にまよっていたので、つぎの朝、あき家をとびだしたときには、そこがきのうの道とちがっていることに、ったのもむりはない。
「それで、先生」
 謙三は、いつのまにやら、金田一耕助を先生とよぶようになっていた。
「鬼丸博士のゆくえはまだわかりませんか」
「わかりません。警察でもやっきとなって、さがしているようですがね。ときに滋君、きみは、あの鍵をもっているでしょうね」
「ええ、ここに持っています」
 滋は守りぶくろから、黄金の鍵をだしてみせると、
「ところが、先生、この鍵について、ちょっとみょうなことを発見したのですよ」
 と、あの番号のことをかたってきかせると、金田一耕助も虫almo nature 狗糧めがねをとって、まじまじと鍵のおもてをながめながら、
「なるほど、なるほどたしかにナンバー.ワンとほってありますね。すると、これは滋君のいうように、第二、第三の鍵があるのかもしれませんね。しかし、あるとすればどこにあるのか、いやいったい、だれが持っているのか……」
 金田一耕助はそういって、虫めがねをもったまま、しばらくじっと考えこんでいた。

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