恐怖は感じな

カテゴリー

 闇に目が慣れるまで、しばらくそうしていた。やがて庭に広げられた黒いビニール袋がぼんやりと見えるようになってきた。昭夫は手袋をはめると、ガラス戸dermes 激光脫毛のクレセント錠を外した。
 畳んだ段ボール箱どガムテープ、さらに懐中電灯を持って、改めて庭に出た。暗闇の中で箱を組み立て、まず底の部分をガムテープで固定した。それから黒いビニール袋に目を向けた。
 緊張感と怯《おび》えが彼の身体を包んでいた。見えているのは少女の足先だけだ。まだ一度も死体の全身を正視していない。
 口の中がからからに乾いていた。逃げ出したいというのが本音だった。
 これまでに人間の死体を見たことがないわけではない。一番最近目にしたのは父親の遺体だ。その遺体を怖いとか気味悪いというふうには全く思わなかった。医師に室內設計よって死亡が確認された後も、その顔に触れることができた。
 ところが今は、その時の気持ちとはまるで違っていた。黒いビニール袋の盛り上がりを見ただけで足が震えた。それをめくる勇気が出なかった。
 死体がどんな様相を呈しているのかわからず、それを確かめるのが怖い──それはたしかにある。病死の場合は、息を引き取る前と後で、さほど大きな変化があるわけではない。死んでいるのかどうかさえ、ちょっと見ただけではわからないほどだ。だがここにある死体はそういうものではない。元気に遊んでいたに違いない少女が、突然殺されたのだ。首を絞められて殺されたのだ。そんな場合に死体がどうなるのか、昭夫は知らない。
 だが怖い理由はそれだけではない。
 もし警察に通報するのであれば、これほどのいはずだった。正当な理由のもとでなら、死体を段ボール箱に入れることも、さほど苦痛ではないと思えた。
 自分のやろうとしていることのあまりの非道徳さに怯えているのだ、と昭夫は気づいた。死体を見るということは、それをさらに露《あら》わにすることなのだ。
 遠くで車の走る音がした。それで我に返った。ぼんやりしている場合ではなかった。こんなところを近所の人間に見られたら、それこそ元も子もない。
 いっそのこと、黒いビニール袋に包んだまま運ぼうか、と考えた。公園のトイレに置いたら、目をつぶってビニール袋をはがし、死体を見ないで戻ってくる。それならできそうだった。
 だがすぐに昭夫は小さく頭を振った。死体を確認しないわけにはいかなかった。死体にどんな痕跡《こんせき》が残っているかわからないからだ。直巳が手にかけたという証拠がどこかに残っている可能性も皆無ではない。
 やるしかないのだ、と彼は自分にいい聞かせた。どんなに非人道的であろうとも、家族を守るためにはほかに道はない。
 昭夫は深呼吸し、その場で屈んだ。黒いビニール袋の端を持ち、ゆっくりとめくっていった。